BeethovenGeidai meets Beethoven―図書館資料から見た藝大とベートーヴェンの歴史―

東京藝術大学音楽学部の歴史は、明治12年設置の文部省音楽取調掛にさかのぼります。東京藝術大学附属図書館には、当時からのコレクションが保存されています。
今回は図書館のコレクションから藝大とベートーヴェンの歴史を辿ってみましょう。

1.ソナチネアルバム

音楽取調掛が最初期に入手していたケーラーとルートハルトによるソナチネアルバム。この中にベートーヴェンのピアノソナタ第19番・第20番(作品49)が収められています。
音楽取調掛では、初期の楽譜は、このような易しい曲集から揃えられていたようです。

Sonatinen Album Sonatinen Album
Sonatinen Album : Sammlung beliebter Sonatinen Rondos und Stücke für Pianoforte
 herausgegeben von Louis Köhler ; neu revidiert von Adolf Ruthardt
 Leipzig : Peters, [18--]
 131 p. of music ; 30 cm
PSON/1/1(登録番号: 5)

2.ピアノソナタ第8番「悲愴」

ピアノソナタ第8番(作品13)「悲愴」の楽譜。原曲はピアノ1台用ですが、ピアノとリードオルガンの二重奏に編曲されている、現在ではめずらしい楽譜です。
明治18年の楽譜原簿「楽譜仮名目録」(5.を参照) には、「ラツク氏」を訂正して「ビートベン」の「グランド、ソナタ、パテチック」と記帳されています。

ピアノソナタ第8番「悲愴」 ピアノソナタ第8番「悲愴」 ピアノソナタ第8番「悲愴」
Grande sonate pathétique de L. van Beethoven transacrite pour piano avec accompagt. de physharmonical (ou pour deux pianos)
 C. George Lickl
 Milano : Ricordi, [18--]
 2 parts ; 35 cm
PDUO/45,46(登録番号: 186, 187)

3.全交響曲ピアノ編曲譜

ヴィンクラーによる、全交響曲(全9作)のピアノ(1台用)編曲譜。これはベートーヴェンの交響曲集として最初期からあったものです。

全交響曲ピアノ編曲譜 全交響曲ピアノ編曲譜
Symphonien / [Ludwig van Beethoven] ; arrangirt von Louis Winkler
 Braunschweig : H. Litolff's Verlag, [18--]
 332 p. of music ; 30 cm
PSOLO/80(登録番号: 305)

4.交響曲第3番「英雄」ピアノ連弾用楽譜

交響曲第3番「英雄」のピアノ連弾用楽譜。表紙の状態から非常に使い込まれていることが分かります。
なお、音楽取調掛時代のコレクションの中には、ベートーヴェンのオーケストラスコアの存在は確認できていません。

交響曲第3番「英雄」ピアノ連弾用楽譜 交響曲第3番「英雄」ピアノ連弾用楽譜
Sinfonia Eroica, op. 55
 de L. van Beethoven ; [arranged for one piano four hands]
 Bonn : Simrock, [18--]
 55 p. of music ; 34 cm
PDUO/82(登録番号: 602)

ここまでに紹介した楽譜は、音楽取調掛時代の明治13年から明治20年の間に収蔵され使用されていたものです。

5.楽譜仮名目録

明治18年の楽譜原簿「楽譜仮名目録」。現存するもっとも古い楽譜原簿。
右側の丁の1行目に「ラツク氏」を訂正して「ビートベン」の「グランド、ソナタ」と記帳されています。

楽譜原簿 楽譜原簿

6.交響曲第9番スコア

明治20年に文部省音楽取調掛は発展解消し、東京音楽学校として改めて発足しました。東京音楽学校の時代は、唱歌教育が中心の時代から本格的な西洋音楽の演奏に取り組んでいくことになります。
この楽譜は、明治32年11月の受入で、東京音楽学校時代のコレクションに残っている、第九のオーケストラスコアとして最も古いものになります。

交響曲第9番スコア 交響曲第9番スコア 交響曲第9番スコア
Neunte Symphonie mit Schlusschor über Schiller's Ode an die Freude, op. 125
 L. van Beethoven
 Leipzig : Breitkopf & Härtel, [18--]
 1 score (276 p.) ; 33 cm
ORCH/1148(登録番号: B1148)

7.交響曲第9番SPレコード

1923年10~11月に収録された、アルバート・コーツ指揮、交響楽団ほかによる英語歌唱のレコード。1924年5月、この曲の「初演100周年」として英HMV社より発売されました。
このレコードは、発売後まもなくの1924 (大正13) 年10月14日に受け入れられたと推定されます。大正13年には、東京音楽学校による「第九」(グスタフ・クローン指揮)全曲初演(大正13年11月29、30日、追加公演12月6日)が行われています。
音楽学校の教員や生徒は、おそらく本番前にこのレコードを蓄音機で聴いたのではないでしょうか。

交響曲第9番SPレコード 交響曲第9番SPレコード 交響曲第9番SPレコード
Symphony No. 9 in D minor, Op. 125
 Beethoven ; Symphony Orchestra and Chorus conducted by Albert Coates
 HMV D 842-849
 8 discs ; 30 cm
SP/417-424

ここまで第九全曲初演までの歴史を辿ってみました。最初の頃に入ったソナチネアルバムから40年以上の時間が経っています。
この当時、第九が毎年のように演奏される日が来ることを予想できたでしょうか。